トーマス・ピテラ（Thomas Pitera）ボナンノ一家の米国人ギャング あだ名は「トミー空手」や「空手野郎」

トーマス・ピテラ（Thomas Pitera）

　　　1954年12月2日生まれ

　ニューヨーク市を拠点とするボナンノ一家の米国人ギャングで組織内の階級は兵士であり、後に自身の一味のリーダーとなった。

　ピテラは、法執行機関から60件もの殺人容疑をかけられていた。

　ピテラは、幼い頃から空手などの格闘技を駆使することで知られており、その技から「トミー空手」や「空手野郎」といったあだ名で呼ばれていた。

　現在、ピテラは、ケンタッキー州アイネスにあるビッグサンディ連邦刑務所で終身刑に服している。
　トーマス・ピテラは、ニューヨーク市ブルックリンのグレイヴゼンド地区で、個人経営の売店でキャンディーの卸売りを営むサレルノ州カンパーニャ出身のイタリア系アメリカ人

　　　ジョセフ・「ジョー」・ピテラ

と、ラインラント＝プファルツ州出身のドイツ系ポーランド人

　　　キャサリン・ブゴフスキー

の息子として育った。

　ジョン・エイライトは後にポッドキャストで、トミーとトミーの両親を知っていたと語っている。

　エイライトはガンビーノ・ファミリーの仲間で2008年には政府公証人となり、

　　　ガンビーノ・ファミリー

とその元ボス代理

　　　ジョン・A・「ジュニア」・ゴッティ

に対して証言を行った。

　ピテラはグレイヴゼンドのアベニューS228番地にあるデイビッド・A・ブーディー中学校に通っていた。

　素行が悪く教師にはあまり良い印象を与えず、空想にふけることが多く、甲高い声のせいで同級生からいじめを受けていた。

　格闘技に興味を持つ前はプロ野球選手を目指していたが、同級生から疎外され、野球部の代表チームには入れなかった。

　彼はその後、復讐としてブーディに侵入し、学校の野球チームの用具を盗み、それを近所の「盗賊」たちに売った。
　彼は後に窃盗罪で逮捕・起訴された。

　ただ、未成年者として有罪判決を受け、前科は抹消された。

　ブルックリンのシープスヘッド・ベイにある道場に通い、すぐにクラスのトップに上り詰めた。

　彼は日々、トレーニング、ウェイトリフティング、極真空手の戦闘戦略や戦術に関する読書、そして主にカンフー映画を中心とした暴力的な映画鑑賞を欠かさず継続した。

　ピテラは12歳の頃、1966年のテレビ番組『グリーン・ホーネット』と、ヴァン・ウィリアムズと共演した俳優

　　　ブルース・リー

の大ファンであり、これが生涯にわたる格闘技への関心のきっかけとなった。

　その後、1969年にジェームズ・ガーナー主演、リーが「リー・ウォン」役で出演した映画『マーロウ』が公開された。

　格闘技への関心は確固たるものとなった。

　彼は、両親が「ヒッピー」のように見えるのを嫌がったにもかかわらず、太くてまっすぐな黒髪を耳の下まで伸ばした。

　また、寿司を日常の食生活の一部として食べ始め、東洋哲学に没頭した。
　シープスヘッド湾での組手大会で優勝した。

　その後、ピテラは東京で27ヶ月間、師範の

　　　益見博志氏

に師事し、古流忍術の修行を積んだ。

　母と叔母の

　　　アンジェリーナ・ブゴウスキー

が彼を訪ね、彼の容姿、成熟度、感受性、そして日本の文化と人々に対する理解の変化に感銘を受けたという。

　彼はトンファー、ヌンチャク、そして日本刀の使い方を訓練された。

　日本滞在中、彼はブルース・リーのイメージを体現するため、髪を肩まで伸ばした。

　奨学金終了後、彼は滞在費を賄い、より多くの収入を得るために箸工場で働き始めた。

　このため、彼は空手ではなく戸隠流忍術を専門としていたにもかかわらず、友人や仲間のギャングから

　　　トミー・カラテ

というあだ名で呼ばれるようになった。
　ブルックリンに戻ったピテラはボナンノ一家に加わり、ボスの

　　　フィリップ・ラステリ

とその筆頭カポである

　　　ジョセフ・マッシーノ

　　　ドミニク・ナポリターノ

が率いる現体制に対抗していた

　　　アルフォンス・“ソニー・レッド”・インデリカート

　　　フランク・リノ

　　　ドミニク・トリンチェラ

　　　フィリップ・ジャコーネ

といったカポレギエ（カポレギエ）が率いるボナンノ派に属し、最も恐れられる殺し屋の一人となった。

　1981年、マッシーノとナポリターノは、

　　　サミー・グラヴァーノ

が共同経営者を務めるグレイブゼンドのクラブで、ライバル関係にある3人のカポの殺害を企てた。

　3人の死後、マッシーノはピテラを含む、リーダー不在の残りの一派と和解した。

　1980年代、ピテラはボナンノ一家の中で成金となり、ボナンノの顧問

　　　アンソニー・スペロ

によってリノの一味に配属された。
　1988年8月29日、ピテラは

　　　ウィルフレッド「ウィリー・ボーイ」ジョンソン

が車に向かって歩いていたところを待ち伏せし、殺害したとされている。

　ジョンソンはガンビーノ・ファミリーのボス

　　　ジョン・ゴッティ

の長年の仲間であり、運転手でもあった。

　ゴッティがジョンソンが1966年から政府の情報提供者だったことを突き止めた。

　その後、この殺害はピテラと仲間の銃撃犯

　　　ヴィンセント「コジャック」ジャッティーノ

に委託されたと伝えられている。

　ピテラはジョンソン殺害で起訴されたが、裁判では無罪となった。

　ピテラはスペロと親しかった。

　スペロのバスビーチのグループは、恐喝、高利貸し、麻薬取引と殺人、そして麻薬ディーラーからの強盗と製品の転売に関与していた。

　ピテラの仲間である

　　　ロイド・モデル

　　　フランク・マルティーニ

は、コロンビア人のディーラー2人を殺害し、16キログラムのコカインを略奪した。

　犯人らは死体を埋めるためにスタテン島まで車で行くつもりだったが、マニュアル車を運転できなかった。

　このため、トランクに死体を入れたまま車をブルックリンの駐車場に放置した。
　マルティーニはシチリア島に戻り、ボナンノ一家との関係を続けていた。

　その間、ピテラはブルックリンのアパートで中東出身の麻薬密売人

　　　タラ・シクシク

を殺害した。

　ピテラはシクシクの背中を4発撃ち、遺体を6つに切り刻み、ギャングの秘密の埋葬地に埋めた。

　捜査官は最終的に、スタテン島のウィリアム・T・デイビス野生生物保護区近くのギャングの墓地で、ピテラの犠牲者6人を発見した。

　ピテラは遺体の首を切断し、歯科記録による身元確認を阻止するため、偽装し頭部を別々に埋めていた。

　ピテラの殺害と遺体処理へのアプローチは冷酷かつ客観的だったとされている。

　彼がスタテン島の墓地を利用したのは、湿った土壌が腐敗を加速させ、

　　　野生生物保護区

が建設工事中に遺体が発見されるのを防いでくれると信じていたためである。

　ピテラは解剖に関する書籍を研究し、遺体を解体するための特別な道具一式を携帯していた。

　彼は常に、警察犬が匂いを嗅ぎつけないほど深く死体を埋めることを主張していた。

　遺体の一部を埋める前に、ビニール袋に包むか、スーツケースに入れていたとも言われている。

　ピテラの弱点は、仕事の記念品として宝石などを盗んで保管するのが好きだったことだった。
　1990年6月4日、ピテラは麻薬密売組織のリーダーとして、1988年のジョンソン殺人事件を含む7件の殺人に関与したとして起訴された。

　捜査官は、彼が30件もの殺人に関与していたと主張した。

　ピテラのグループは、年間約220ポンドのコカイン、数キロのヘロイン、数百ポンドのマリファナを販売していた。

　麻薬取締局（DEA）の捜査官は、グレイブゼンドにあるピテラのアパートで、60丁以上の自動小銃、ナイフ、剣、そして『ヒットマンズ・ハンドブック』や『キル・オア・ビー・キルド』といった、主に暗殺技術、拷問、死体の解体などを扱った書籍を発見した
　ピテラのクルーの一人、ジェノヴェーゼ家のボス

　　　ロザリオ・ガンジ

の甥である

　　　フランク・ガンジ

は、司法取引のよりピテラに不利な証言をすることを決意した。

　ガンジは飲酒運転で逮捕され、留置所でピテラによる最悪の残虐行為を頭の中で再現し始めたとされている。

　ガンジはピテラと関わった全ての殺人を自白した。

　また、ピテラによる他の殺人事件に関する情報も提供した。

　ガンジはまた、麻薬の売人

　　　マレク・クチャルスキー

との喧嘩の最中、ピテラがナイフを取り出し、クチャルスキーを何度も刺し、最終的に喉を切り裂いたと証言した。

　ピテラの裁判で、

　　　デビッド・W・シャピロ主任検察官

は、ピテラによる「凶悪で残酷、そして堕落した」殺人行為に対し死刑を求刑した。

　検察はピテラを「無慈悲で冷酷な殺人者」と呼び、意図的に野蛮な方法で行われた一連の殺人事件の一つとして、ピテラが被害者の体の様々な部位をゆっくりと意図的に7発撃ち、拷問した様子を詳細に説明した。

　検察はまた、ピテラの被害者の何人かのバラバラにされた遺体が入った墓を掘り返したと証言したDEA捜査官を召喚した。
　ピテラの弁護人である

　　　デイビッド・A・ルンケ氏

は、ピテラに前科がなく、他の殺人犯はより軽い罪状で有罪を認めることを認められていることを理由に、陪審員に対し死刑判決を棄却するよう求めた。

　さらに、殺人被害者のうち、

　　　リチャード・レオーネ

　　　ソロモン・スターン

の2人だけが、連邦死刑法が施行された後の1989年3月15日に殺害された。

　他の4件の殺人事件はそれ以前に発生したため、これらの罪状は終身刑が最高刑であった。

　ピテラの叔母、義理の妹、そして2人のいとこは、ピテラの弁護側で、彼が愛情深く思いやりのある家族の一員であったと証言した。
　1992年6月25日、ピテラはブルックリンで6人を殺害し、大規模な麻薬取引を監督した罪で有罪判決を受けた。

　ただ、1988年のジョンソン殺人事件では無罪となった。

　判決審議中、陪審員はピテラへの死刑を棄却した。

　1992年10月、リーナ・ラッジ判事は、ピテラが被害者を残忍に殺害し、遺体をバラバラにしたという証拠を示唆し、「ピテラさん、これらの人々が死んだように、誰も死ぬべきではありません」と述べ、終身刑を宣告した。
　判決が読み上げられた後、死刑を免れたピテラはブルックリンの法廷に座る記者たちに笑顔で親指を立てた。

　なお、ピテラはガンギがラッジ判事に10年の刑期の減刑を申し立てていることに苛立ちを覚えていた。

　ピテラは後に「ガンギは5人を殺害したことを後悔しており、新しい人生を始めたかったから密告者になったのだ」と述べた。

　また、「10年の刑期は悪くないが、裁判官に泣きつき、刑期の短縮を求めた。」「5人を殺害したことを本当に後悔しているのなら、男らしく罰を受け入れるべきだ」と明かした。

　1992年後半、ラッジ判事は再びガンギの刑期短縮の申し立てを却下した。

　2012年4月3日、米国第二巡回控訴裁判所は、ピテラ被告が犯した3件の殺人事件で使用された銃器およびその他の証拠のDNA鑑定を求める申し立てを却下した。

　2017年4月現在、ピテラ被告はケンタッキー州パインノット近郊のマクリアリー連邦刑務所で終身刑に服している。