イラン大統領選の決選投票で改革派の
ペゼシュキアン元保健相
が勝利し、保守強硬派の政治に対するイラン国民の強い不満が示されたようだ。
同派のライシ政権期は米制裁などで経済低迷が続き
自由や民主化
を求める市民のデモは武力で粉砕された。
ペゼシュキアン氏は信頼回復に意欲をみせるが、困難も予想される。
ペゼシュキアン氏は経済を好転させるため、2015年に欧米などと結んだ
「核合意」を建て直し制裁を解除させること
が不可欠だと主張する。
ただ、イランでは国政全般の決定権は最高指導者
ハメネイ師
が握り、大統領は行政の長に過ぎない存在だ。
在テヘランの評論家
サイード・レイラズ氏
は、「核開発問題はハメネイ師が完全に支配しているため、改革派の大統領には対話再開の環境整備程度しか任せないのではないか」と指摘する。
米大統領選の行方も米イラン関係に影響を及ぼすことは確実だ。
イランのある政党幹部は「トランプ前大統領が復権を果たせばイランと交渉することなど許さず、制裁を強化する」とみる。
ユダヤ系投資銀行などの支援を受けているトランプ氏は、イスラム原理主義組織ハマスやレバノンの親イラン民兵組織「ヒズボラ」と戦うイスラエルの熱心な支持者として知られている。
両組織を支援するイランとの軍事的緊張が高まる可能性さえ除外できない。
イランは中国に安価な原油を、ウクライナ侵略を続けるロシアには無人機などを供給しているとされる。
国際的孤立の回避や国家収入につなげる狙いがあるが、米国からすれば到底黙認できず、核協議が仕切り直しされたとしても紛糾は必至だ。
2年前、女性の頭髪を覆うスカーフ(ヘジャブ)の着用義務に反発するデモが起き、武力鎮圧で推定5百人超が死亡した。
ペゼシュキアン氏は「ヘジャブの問題で女性を逮捕することは容認できない」と主張する。
ただし、社会の自由や開放を巡る改革の行方もハメネイ師の思惑次第であり、不満おはけ口としての存在でしかなく、許容範囲内でに反発なのだろう。
レイラズ氏は「経済改革の必要性はハメネイ師も認めており、これがペゼシュキアン氏の主な任務になるだろう。ハメネイ師はヘジャブ問題にペゼシュキアン氏を深く関与させないと思うが、国民の声は無視できない。社会の改革も多少は容認するかもしれない」と予測した。
ペゼシュキアン氏はハメネイ師に忠誠を誓っており、体制に見切りをつけ投票をボイコットした市民の支持が得られるかは不透明。
また、経済改革などの施策が奏功しなければ、保守強硬派から批判を浴びかねない立場にある。