カーク・カーコリアン（Kirk Kerkorian） 投資企業トラシンダ(Tracinda)の創業者

カーク・カーコリアン（Kirk Kerkorian）　

　　　1917年6月6日 - 2015年6月15日

　米国の実業家で、ビヴァリー・ヒルズ（カリフォルニア州）に本拠を置く投資企業

　　　トラシンダ(Tracinda)

の社長兼CEOであった。

　ラスベガス市（ネバダ州）の娯楽産業化に関わった重要人物の1人であり、「メガリゾートの父」として知られる。

　経済誌『フォーブス』が発表した世界長者番付の2006年度版によると、2006年の資産は約90億ドルで、世界で40位の富豪。

　アルメニア人移民の両親のもと、カリフォルニア州中部のフレズノに生まれた。

　学校を8学年目で中退した若きカーコリアンは、兄の指導の下で優れた

　　　アマチュア・ボクサー

となり、「ライフル・ライト・カーコリアン（Rifle Right Kerkorian）」の名で闘った。

　1939年に航空機の飛行技術の修得に関心を移した。

　第二次世界大戦中には、カーコリアンはイギリス空軍のパイロットとして従軍した。

　1944年、セスナ機のパイロットとして初めてラスベガスを訪れた。

　カーコリアンは1940年代から1950年代にかけて多くの時間をギャンブルをするため同地で過ごした。

　戦後、カーコリアンはギャンブルから手を引き、1947年に6万ドルを投じて新興航空会社

　　　「トランスインターナショナル航空」

を設立し、ロサンゼルスからラスベガスまでギャンブラーを送迎するサービスを展開した。

　また、1962年、ラスベガス通り（Las Vegas Strip）一帯の土地80エーカー（32.3ヘクタール）を96万ドルで

　　　フラミンゴ・ホテル

から購入した。これは「シーザーズ・パレス（Caesars Palace）」の建設に繋がった。

　シーザーズは土地をカーコリアンから賃借し、1968年に取得した。

　なお、前年にはラスベガスのパラダイス通りの土地82エーカー（33ヘクタール）を500万ドルで購入したうえ、建築家

　　　マーティン・スターン・ジュニア（Martin Stern, Jr.）

と共に、当時の世界最大のホテル「インターナショナル・ホテル」を建設した。

　カーコリアンがこの間に得た地代、及び売却益は900万ドルにのぼった。

　同年に経営していた航空会社をトランスアメリカ航空に1億400万ドルで売却した。

　ホテルの巨大なShowroom Internationaleに現れた最初の2人の著名人は、バーバラ・ストライサンドとエルヴィス・プレスリーであった。

　プレスリーは30日間にわたり、約4,200人の客を招き入れ、ラスベガス市史における来客記録を更新した。

　カーコリアンが経営していた

　　　インターナショナル・レジャー

は、「フラミンゴ・ホテル」も買収した（1970年、ヒルトン・ホテルに売却）。

　インターナショナル・ホテルは、その後、「ラスベガス・ヒルトン」を経て「LVHラスベガス・ホテル&カジノ」として知られている。

　2000年頃までは、フラミンゴは「フラミンゴ・ヒルトン」として知られていた。

　1973年、著名な映画会社「メトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）」を買収した。

　再び建築家のスターンと組んだカーコリアンは、MGMと共に旧MGMグランド・ホテル・アンド・カジノを開業した。

　同ホテルは、一時は世界最大のホテルの地位にあったものの、1980年11月21日、ラスベガス史上最悪の災害の1つとされる火災で炎上した。

　ラスベガス消防本部は、この火災で84人が死亡したと報告した。

　その後、不急工事を急ぎMGMグランドはわずか8ヵ月後に営業を再開した。

　ただ、このMGM火災の約3ヵ月後、ラスベガス・ヒルトンでも出火し、8人が死亡した。

　1986年に、カーコリアンはラスベガスとリノのMGMグランド・ホテルをピンボールやスロットマシンの大手メーカー

　　バリー社（Bally）

に5億9400万ドルで売却した。

　MGMから分社されたMGMミラージュは「ベラッジオ」をはじめ、現在の「MGMグランド・リゾート・コンプレックス」（マリーナ・ホテル跡に建設）、「ミラージュ」、「トレジャー・アイランド」、「ニューヨーク・ニューヨーク」（旧ボードウォーク）などの不動産を所有・運営している。

　また、ビロクシ（ミシシッピ州）では、「ボー・リヴァージュ・カジノ」も所有している。

　
　1969年、ジェームズ・T・オーブリー・ジュニア（James T. Aubrey, Jr.）をMGM社長に据えた。

　オーブリーは不振にあえぐMGMの事業規模を縮小して「ドロシーのルビーの靴」（映画『オズの魔法使』で使用）を含む膨大な歴史的遺産を投げ売って資金を回収した。

　カーコリアンは1973年にMGMの流通網を

　　　ユナイテッド・アーティスツ

に売却してスタジオの日々の活動から次第に距離を置いていった。

　1979年には「今やMGMは、主にホテルを経営する企業である」とする声明を出した。

　1981年にユナイテッド・アーティスツを買収し、総合的なフィルム・ライブラリーとプロダクション・システムを拡張することに成功した。

　その後、1986年、CNNの創業者テッド・ターナーにMGMスタジオを売却した。

　ターナーは、合併後のMGM/ユナイテッド・アーティスツ株を74日間保有した。

　両スタジオは莫大な負債を抱えており、ターナーは単にそのような状況下で株を保有することができなかった。

　そのため、投資分を取り戻すために、彼はユナイテッド・アーティスツとMGMとが持つ商標を全てカーコリアンに売却した。

　撮影所はテレビ・プロダクション会社

　　　ロリマー・プロダクションズ（Lorimar Productions）

に売却された。なお、。1993年にワーナー・ブラザースに吸収される。

　1990年に、彼らが1970年代から賃借したワーナーの撮影所の半分と引き換えに、ソニーの

　　　コロンビア・トライスター・ピクチャーズ

に売却された。

　1990年には、MGMスタジオはイタリアの投資家

　　　ジャンカルロ・パレッティ（Giancarlo Parretti）

に売却された。

　しかし、パレッティはスタジオ購入時に負った債務を履行せず、そのまま1996年にカーコリアンにスタジオを売却した。

　カーコリアンは2004年、ソニー主導のコンソーシアムに、MGMを再び売却した。

　彼は、MGMミラージュ株の55%を保持している。

　2006年11月22日、カーコリアンの投資会社「トラシンダ」は、MGMミラージュ株を1,500万株購入した。

　これにより、出資比率を56.3%から61.7%に引き上げると表明した。

　
　クライスラーの大株主でもあったカーコリアンは1995年、同社会長

　　　ロバート・J・イートン（Robert J. Eaton）

に対し、クライスラー買収を打診して買収計画を正式発表した。

　しかし、イートンはこれに反発し、約7週間の攻防の果てに、両者は和解した。

　この攻防戦が、クライスラーとダイムラー・ベンツとの合併を誘発したとされる。

　カーコリアンは、ゼネラルモーターズ（GM）株を5,600万株（発行済み株式数の9.9%）保有していた。

　2006年6月30日以降の報道で、カーコリアンはルノーに対し、GM救済のためにGMに20%出資するよう提案していた。

　リチャード（リック）・ワゴナーに送られた私信が、GMの経営陣に圧力を加えるため、一般公開された。

　なお、こうした一連の会談は、のちに決裂した。

　2006年11月22日、カーコリアンは保有するGM株を1,400万株売却したが、これは強く支援したルノーと日産自動車による救済を、GMが拒絶したことによるものとみられている。

　GM株売却の結果、GMの株価は11月20日に比べ4.1%下落したうえ、カーコリアンの持株比率は7.4%にまで引き下げられた。

　11月30日、トラシンダ社はGM株をさらに1,400万株売却することで合意したと表明した。

　なお、残り2,800万株はバンク・オブ・アメリカに売却したことも明らかにした。

　これによりトラシンダ社は、保有するGM株を全て放出して一連の経営統合問題から手を引いた。

　
　カーコリアンは1999年、プロのテニス選手

　　　リサ・ボンダー（Lisa Bonder）

と結婚したが28日後に離婚している。

　離婚後ボンダーから、「資産家の娘にふさわしい生活をさせるため」として、娘の養育費を月額32万ドルに増額するよう求める訴えを起こされた。

　さらに映画プロデューサーのスティーブ・ビングからは、プライバシー侵害の訴訟を起こされている。

　カーコリアンは、ビングがボンダーの娘の父であると主張した。

　その主張はのちにDNA型鑑定によって確定し、ボンダーもこれを認めた。

　ただ、ビングがごみ箱に捨てた糸楊枝を盗んで鑑定を行ったこと、これをカーコリアンが指示したことはプライバシーの侵害であると訴え

　　　10億ドル

を求めて提訴した。