元CIA北朝鮮専門家の
スー・ミー・テリー
は、2024年1月30日付のForeign Affairsで、最近の金正恩の演説に関して
北朝鮮の挑発
への過剰反応は危険であり、金正恩は戦争を望んでいない可能性が高い、抑止の強化と偶発戦争の防止が重要だと述べている。
金正恩は、韓国に戦争の脅威を突き付け、両国の親和性を否定し、韓国を敵国と非難した。
1月、元国務省情報調査局東北アジア部長
カーリン
と元ロスアラモス国立研究所長のヘッカーは、金正恩は「戦争に進む戦略的決断を下した」と警告した。
カーリンとヘッカーの懸念は正当だが
金正恩が戦争を望んでいるという証拠
は示していない。
金正恩は、韓国との大規模な戦争は必ず米国を巻き込み、金正恩の政権の終焉を意味することを当然知っている。
それ故、北朝鮮が意図的に戦争を始めることは原則としてはなく、リスクは寧ろ
北朝鮮の軍事的な威嚇
低レベルの攻撃
が報復を引き起こし戦争が始まるといった見方がある。
1月15日の最高人民会議での演説で、金正恩は、韓国を「世界で最も敵対的な」国だと批判したうえ、戦争は避けられないと宣言した。
そして金正日が建設した祖国統一記念塔など南北協力の象徴を破壊するよう呼びかけてみせた。
こうした金正恩の政策変化には、第一は、将来の核使用を正当化するために行われているというもので韓国を敵と位置づけることで、攻撃のための論理的、道義的、イデオロギー上の根拠を確立した。
第二は、韓国を外国として扱い、関係正常化の手段にしようとしたというものだが、韓国と断絶するとの決定は、この説明を不可能にした。
最も信頼性のある説明は、大戦争には至らない程度の韓国への侵略を正当化するために変更したと見られる。
北朝鮮は、地政学的状況を利用している
北朝鮮は、地政学的状況を利用している
米中対立やロシアのウクライナ侵攻
により、中国、ロシアとの経済・軍事協力が増大しており、北朝鮮は挑発行動をとっても制裁を受ける度合いは少なくなった。
ロシア軍の協力により、自由にミサイルの数や質を上げている。
1月6日、北朝鮮は延坪島に近い韓国の海域に200発以上の砲弾を発射した。
ただ、延坪島で住民や軍人が死亡していたなら、尹錫悦大統領は報復砲撃や空爆を命じただろう。
金正恩は特権の保持に最大限の注意を払っており、米国との核戦争には勝てないことは理解しているだろう。
金正恩は政権が崩壊するため、恐らく戦争は望んでいないが、彼が誤算する可能性もある。
偶発紛争防止のため、北朝鮮との意思疎通チャンネル確立が重要だが、北朝鮮内部から金正恩の政権が崩壊し自暴自棄から保有するミサイル等を中国やロシアを含めて打ち放す可能性もある。
日米韓の協力促進は表面的には重要で、情報共有やミサイル防衛、共同演習の増加等をある程度はしておくことが必要だろう。
戦争は不可避で北朝鮮を抑止できるのは限定的であり、北朝鮮に決意と強さを見せ他としても、大量破壊兵器の性能が向上することを止めることは軍事的措置以外には不可能だろう。
昨年12月、金正恩は中央委員会で演説し、米国等に「強硬政策を実施する」と強調した。
また、韓国との関係を統一の対象ではなく敵対的かつ戦争中にある国家間の関係へと転換すると述べた。
今年1月15日には、最高人民会議で演説し、@「大韓民国を第1の敵対国、不変の主敵」とみなし、戦争の時には韓国を完全に占領し、北朝鮮の領域に編入するよう憲法の改正を指示し、A祖国平和統一委員会(韓国との窓口機関)や民族経済協力局、金剛山国際観光局を廃止すると決定した。
1月11日、二人の専門家、カーリンとヘッカーは、金正恩は戦争に踏み切る戦略的決断をしたとの見方を示した。
それは世界の専門家の議論を触発させている。
今のところ、大勢はカーリンとヘッカーの見解に同意しておらず、こうした見解には批判的であるが、ナチスのポーランド侵攻などを考えれば、独裁者の行動は悲惨な行動を引き起こすこを頭の中に入れていないようだ。
そのためか、「証拠を提示していない」、「金正恩は合理的なアクター」などと言う始末だ。
北朝鮮の挑発に対する報復が戦争を起こすリスクがあることを金正恩に認識させる必要がある。
ただ、2010年の哨戒艇チョナンの沈没や延坪島への砲撃の時には、それまでも常にそうであったが、韓国が報復を主張し、最後は米国がそれを抑えるなど戦費の増加を抑制する経済的な背景が米国に存在している。
そのパターンは今後も変わらない。軍産複合体制の米国が、表面として抑止の強化と報復の制御が重要な政策と継続させるのは確かだろう。