ニコラ・テスラ（Nikola Tesla） セルビア系アメリカ人の技術者、未来学者、発明家 磁束密度の単位テスラにその名を残す。

ニコラ・テスラ（Nikola Tesla　Никола Тесла）
　　　1856年7月10日 - 1943年1月7日
　セルビア系アメリカ人の技術者、未来学者、発明家。
　現代の交流（AC）電力供給システムの設計への貢献で知られている。

　テスラは、オーストリア帝国で生まれ育った。
　1870年代に学位を取得せずに工学と物理学を学んだ後、1880年代初頭に電話技術と

　　　コンチネンタル・エジソン社

の新興電力産業で実務経験を積んだ。
　1884年に米国に移住し、帰化した。
　ニューヨーク市の
　　　エジソン・マシン・ワークス
で短期間働いた後、独立した。
　パートナーの資金援助とアイデアのマーケティングにより、テスラはニューヨークに研究所と会社を設立し、さまざまな電気機器や機械機器を開発した。
　1888年にウェスティングハウス・エレクトリック社からライセンスを受けた交流誘導モーターと関連する多相交流特許は、テスラに大きなの利益をもたらし、最終的に同社が販売する多相システムの基礎となった。

　特許を取得して市場に出せる発明をしようと、テスラは機械式発振器/発電機、放電管、初期のX線画像化など、さまざまな実験を行った。
　また、無線で操縦できるボートも製作したが、これは史上初の展示品の一つであった。
　テスラは発明家としてよく知られるようになり、研究室で著名人や裕福なパトロンに業績を披露した。
　このほか、公開講演でのショーマンシップでも注目された。
　1890年代を通して、テスラはニューヨークとコロラドスプリングスでの高電圧、高周波電力実験で、無線照明と世界規模の無線電力配電のアイデアを追求した。
　1893年、彼は自分の装置で無線通信が可能になると発表した。
　テスラはこれらのアイデアを、大陸間無線通信および電力送信機である未完成のウォーデンクリフタワー計画で実用化しようとしたが、完成する前に資金が尽きた。

　ウォーデンクリフの後、テスラは1910年代から1920年代にかけて一連の発明を試みた。
　なお、成功の度合いはさまざまだった。
　テスラは研究に稼いだ資金を投入し財産のほとんどを使い果たし、ニューヨークのホテルに転々とし、未払いの請求書を残していった。
　彼は1943年1月にニューヨークで亡くなった。　
　テスラの死後、彼の業績は比較的知られていなかったが、1960年に国際度量衡総会が彼に敬意を表して磁束密度の測定単位である国際単位系（SI）をテスラと名付けた。
　1990年代以降、テスラに対する一般の関心が再び高まっている。　クロアチアのスミリャンにあるテスラの生家（教区ホール）と父親が奉仕していた教会が再建された。

　また、この場所はテスラを称えるために博物館になった。
　

　ニコラ・テスラは1856年7月10日、オーストリア帝国（現在のクロアチア）の軍事国境内にあるスミリャン村のセルビア人家庭に生まれた。
　父親のミルティン・テスラ（1819–1879）は東方正教会の司祭であった。
　父の兄弟のヨシフは陸軍士官学校の講師で、数学の教科書を数冊執筆していた。

　テスラの母親、
　　　ジョージナ・「ジュカ」・マンディッチ（1822年 - 1892年）
の父親も東方正教会の司祭であった。
　ただ、家庭用の道具や機械器具を作る才能があり、セルビアの叙事詩を暗記する能力もあったと伝わっている。
　ジュカは正式な教育を受けたことがなかったが、テスラは自分の映像記憶力と創造力を母親の遺伝と影響によるものだと考えていた。

　テスラは5人兄弟の4番目だった。
　ミルカ、アンジェリーナ、マリカという3人の姉妹と、デーネという兄がいた。
　デーネはテスラが6歳か7歳のときに乗馬中の事故で亡くなった。
　1861年、テスラはスミリャンの小学校に通い、ドイツ語、算数、宗教を学んだ。
　1862年、テスラ一家は近くのゴスピッチの町に引っ越した。
　テスラの父はそこで教区司祭として働いていた。
　ニコラは小学校を卒業し、続いて中学校に通った。
　1870年、テスラはカルロヴァツに移り[、オーストリア＝ハンガリー帝国軍国境内の学校では普通だったように、授業はドイツ語で行われる高等学校に通った。　
　なお、テスラはアメリカ国籍を取得する前の特許出願において、自分自身を「オーストリア・ハンガリー帝国の国境にあるリカ地方のスミリャン出身」と記載している。

　テスラは後に、物理学の教授による電気のデモンストレーションに興味を持つようになったと書いている。　
　テスラは、この「不思議な現象」のデモンストレーションを見て、「この素晴らしい力についてもっと知りたい」と思うようになったと述べている。
　テスラは暗算をすることができ、教師たちは彼がカンニングをしていると思ったという。
　彼は4年間の学期を3年で終え、1873年に卒業した。

　卒業後、テスラはスミリャンに戻ったが、すぐにコレラに感染した。
　9か月間寝たきりになり、何度も死にかけた。
　絶望の瞬間、テスラの父親（もともと彼に聖職に就くことを望んでいた）は、病気が治ったら最高の工学学校に送ると約束した。
　テスラは後に、病気から回復している間に
　　　マーク・トウェイン
の初期の作品を読んだと語った。

　翌年、テスラはオーストリア＝ハンガリー帝国軍への徴兵を逃れてスミリャンでリカの南東からグラチャツ近郊のトミンガイに逃げた。
　そこで彼は狩猟服を着て山を探検した。
　テスラは、この自然との触れ合いが彼を肉体的にも精神的にも強くしたと述べている。
　彼は1875年に軍事国境奨学金を得てグラーツの帝国王立工科大学に入学した。
　テスラは9つの試験に合格し（規定のほぼ2倍）、工科大学の学部長から父親に「あなたの息子は一流のスターです」と書かれた表彰状を受け取った。　
　グラーツでテスラは、ヤコブ・ペッシュル教授による電気に関する詳細な講義に魅了されたと述べ、教授が実演していた電気モーターの設計を改善する提案をしたことを述べている。　
　しかし、3年生になると彼は学校で落第し、卒業することなく、 1878年12月にグラーツを去った。
　テスラは勉強しておらず、ギャンブルと女遊びのために退学になったのではないかとも伝わっている。

　テスラの家族は、彼が学校を卒業した後、彼から連絡を受けておらず音信不通であった。
　クラスメートの間では、彼が近くのムール川で溺死したという噂が流れていた。
　ただ、1月にそのうちの一人がマリボルの町でテスラに偶然出会い、そのことをテスラの家族に報告した。　
　テスラはそこで製図工として月給60フローリンで働いていたことが判明した。　
　1879年3月、ミルティンはついに息子の居場所を見つけ、帰国してプラハで教育を受けるよう説得した。
　その月の後半、テスラは居住許可証を持っていなかったために国外追放されてゴスピッチに戻った。
　テスラの父親は翌月の1879年4月17日、原因不明の病気のため60歳で亡くなった。
　その年の残りの期間、テスラはゴスピッチにある彼の母校で大勢の生徒を教えた。

　1880年1月、テスラの叔父2人が十分な資金を集め、彼がゴスピッチを離れ、プラハで勉強することになった。
　彼はカール・フェルディナンド大学に入学するには遅すぎたため、必修科目であるギリシャ語を一度も学んだことがなく、もう一つの必修科目であるチェコ語も読めなかった。
　しかし、テスラは聴講生として大学の哲学の講義に出席したが、成績はもらえなかった。

　テスラは1881年にハンガリーのブダペストに移り、ブダペスト電話交換局という電信会社で
　　　ティヴァダル・プスカシュ
の下で働いた。
　到着後、テスラは当時建設中だった会社が機能していないことに気づき、代わりに中央電信局で製図工として働いた。
　数か月以内にブダペスト電話交換局は機能するようになり、テスラは
　　　主任電気技師の地位
に就いた。
　在職中、テスラは中央局の設備に多くの改良を加え、特許も公にもなっていない電話中継器や増幅器を完成させたと主張した。

　1882年、ティヴァダル・プスカシュはパリの
　　　コンチネンタル・エジソン社
でテスラにもう一つの仕事を紹介した。
　テスラは当時まったく新しい産業、市内の大規模電力会社で屋内白熱灯を設置する仕事に就いた。
　この会社にはいくつかの部門があり、テスラはパリ郊外のイヴリー＝シュル＝セーヌにある照明システムの設置を担当する
　　　ソシエテ・エレクトリック・エジソン社
で働いた。そこで彼は電気工学の実践経験を豊富に積んだ。
　経営陣は彼の工学と物理学に関する高度な知識に着目し、すぐに発電機とモーターの改良版の設計と製作を任せた。
　彼らはまた、フランスやドイツで建設中の他のエジソンの電力会社で技術的な問題のトラブルシューティングを行うために彼を派遣した。

　テスラにとって、国際的なヨーロッパからマンハッタンのローワー・イースト・サイドの集合住宅に囲まれたニューヨークのゴアック通りにあるエジソン・マシン・ワークスの工場で働くことに変わったことは「痛い驚き」であった。

　1884年、パリの設備を監督していたエジソンのマネージャー
　　　チャールズ・バチェラー
は、ニューヨーク市にある製造部門であるエジソン機械工場を管理するために米国に呼び戻され、テスラも米国に連れてくるように依頼した。
　1884年6月、テスラは移住しし、マンハッタンのローワーイーストサイドにある機械工場でほぼすぐに働き始めた。
　そこは数百人の機械工、労働者、管理スタッフ、そしてその都市で大規模な電力会社を建設するという仕事に奮闘する20人の「現場技術者」で混雑した職場だった。
　パリと同様に、テスラは設備のトラブルシューティングと発電機の改良に取り組んでいた。
　歴史家の
　　　W・バーナード・カールソン
は、テスラが会社の創設者
　　　トーマス・エジソン
に会ったのは2、3回だけかもしれないと指摘している。
　テスラの自伝には、そのような出来事の 1 つが記されており、遠洋定期船SS オレゴン号の破損した発電機を修理するために夜通し起きていた後、テスラはバチェラーとエジソンに偶然出会ったという。
　彼らは、彼らの「パリジャン」が夜通し外出していたと冗談を言った。
　テスラがオレゴン号の修理のために夜通し起きていたことを彼らに伝えると、エジソンはバチェラーに「この人は本当にいい人だ」とコメントした。
　テスラに与えられたプロジェクトの 1 つは、アーク灯ベースの街路照明システムの開発だった。　
　アーク照明は街路照明の最も一般的なタイプだったが、高電圧を必要とし、エジソンの低電圧白熱灯システムと互換性がなかったため、会社はいくつかの都市で契約を失った。
　テスラの設計は、白熱灯街路照明の技術的改善のためか、エジソンがアーク照明会社と結んだ設置契約のためか、生産されることはなかった。

　テスラは機械工場で合計6か月間働いていたが、その後辞めた。
　何が彼の退職のきっかけとなったかは不明であるが、発電機の再設計か、棚上げになったアーク照明システムに対する未払いのボーナスが原因だったとも言われている。
　テスラは、自分が稼いだと思っていた未払いのボーナスをめぐってエジソン社と以前にも衝突したことがある。
　自伝の中で、テスラはエジソン機械工場のマネージャーが「24種類の標準機械」を設計すれば5万ドルのボーナスを出すと申し出たが、「結局は悪ふざけだった」と述べ未払いとしている。
　この話の後の話しでは、トーマス・エジソン自身が申し出て、その後、取り消し、「テスラ、あなたは私たちアメリカ人のユーモアを理解していない」と皮肉ったとされている。
　どちらの話でもボーナスの額は奇妙だと指摘されている。
　マシンワークスのマネージャーであるバチェラーに対してはエジソンは給料にケチだったし、会社にはその額の現金（現在の価値で1,749,815ドルに相当）が手元になかったという。
　テスラの1884年12月7日から1885年1月4日までの2ページにわたって走り書きされた日記には、雇用終了時に何が起こったかについて「エジソンマシンワークス、さようなら」というコメントが1つだけ記載されている。

　エジソン社を去って間もなく、テスラはアーク照明システムの特許取得に取り組んでいた。
　それはおそらくエジソンで開発したのと同じものだった。
　1885年3月、彼は特許申請の支援を得るために、エジソンが雇っていたのと同じ弁理士
　　　レミュエル・W・セレル
と会った。
　セレルはテスラを
　　　ロバート・レーン
　　　ベンジャミン・ヴェイル
という2人のビジネスマンに紹介し、彼らはテスラの名前でアーク照明の製造およびユーティリティ会社、テスラ電灯製造会社に資金を提供することに同意した。
　テスラはその年の残りを、改良された直流発電機を含む特許の取得、米国でテスラに与えられた最初の特許の取得、ニュージャージー州ラーウェイでのシステムの構築と設置に費やした。
　テスラの新しいシステムは技術報道で注目され、その先進的な特徴について論じられた。

　ただ、投資家たちは、新しいタイプの交流モーターと電気伝送装置というテスラのアイデアにほとんど関心を示さなかった。
　1886年に電力会社が稼働し始めた後、彼らは事業の製造側は競争が激しすぎると判断し、単純に電力会社を経営することにした。
　彼らは新しい電力会社を設立し、テスラの会社を放棄して発明者を無一文にさせた。
　テスラは、株式と引き換えに会社に特許を譲渡していたため、取得した特許の管理権さえ失った。
　彼は、様々な電気修理の仕事や、1日2ドルの溝掘りの仕事で働かなければならなかった。
　後年、テスラは1886年のその時期を苦難の時代として振り返り、「科学、機械、文学の様々な分野で受けた高等教育は、私にとっては嘲笑のようだった」と書いている。

　1886年後半、テスラは
　　　ウエスタンユニオン
の社長アルフレッド・S・ブラウンとニューヨークの弁護士
　　　チャールズ・フレッチャー・ペック
に会った。
　2人は会社を設立し、金銭的利益のために発明や特許を推進する経験があった。
　熱磁気モーターのアイデアを含むテスラの電気機器に関する新しいアイデアに基づいて、彼らは発明者を財政的に支援し、彼の特許を扱うことに同意した。
　2人は1887年4月に
　　　テスラ・エレクトリック・カンパニー
を設立し、特許から得られた利益の1/3をテスラに、1/3をペックとブラウンに、1/3を開発資金として分配するという合意に達した。
　彼らはマンハッタンのリバティ通り89番地にテスラのための研究所を設立し、そこでテスラは新しいタイプの電気モーター、発電機、その他の装置の改良と開発に取り組んだ。

　1887年、テスラは交流（AC）で動く誘導モーターを開発した。
　交流は長距離高電圧送電の利点から、ヨーロッパやアメリカで急速に普及しつつあった電力システム形式である。
　このモーターは多相電流を使用し、回転磁界を発生させてモーターを回転させた（テスラが1882年に考案したとされる原理）。
　1888年5月に特許を取得したこの革新的な電気モーターは、整流子を必要としないシンプルな自己始動設計で、火花の発生や、機械式ブラシの頻繁な点検や交換といった面倒なメンテナンスを回避できた。

　モーターの特許取得と並行して、ペックとブラウンはモーターの宣伝も手配した。
　まずは独立したテストを行って機能改善であることを確認することから始め、続いて特許発行と同時に記事が掲載されるよう技術出版物にプレスリリースを送った。
　物理学者のウィリアム・アーノルド・アンソニー（モーターをテストした）とElectrical World誌編集者のトーマス・コマーフォード・マーティンは、1888年5月16日にアメリカ電気学会でテスラが交流モーターを実演できるように手配した。
　
　ウェスティングハウス・エレクトリック・アンド・マニュファクチャリング・カンパニーで働いていた技術者たちは
　　　ジョージ・ウェスティングハウス
に、テスラは実用的な交流モーターと関連電力システムを持っていると報告した。
　それはウェスティングハウスが既に販売していた交流システムに必要としていたものだった。
　ウェスティングハウスは、1885年に開発され、1888年3月にイタリアの物理学者
　　　ガリレオ・フェラーリス
が論文で発表した、
　整流子のない回転磁場ベースの誘導モーターと同様の特許取得を検討したが、テスラの特許がおそらく市場を支配するだろうと判断した。

　1888年7月、ブラウンとペックはジョージ・ウェスティングハウスと、テスラの多相誘導電動機と変圧器の設計に関するライセンス契約を交渉した。
　ライセンス契約で現金と株式で6万ドル、各モーターが生み出す交流馬力あたり2.5ドルの使用料を支払った。

　ウェスティングハウスはまた、テスラをウェスティングハウス・エレクトリック・アンド・マニュファクチャリング・カンパニーのピッツバーグ研究所のコンサルタントとして、月額2,000ドル（現在の価値で70,000ドル）という高額な報酬で1年間雇用した。

　その年、テスラはピッツバーグで働き、市内の路面電車に電力を供給する交流システムの開発に協力した。
　彼は、交流電力を最も効果的に導入する方法をめぐってウェスティングハウスの他のエンジニアと対立し、フラストレーションの溜まる時期だった。
　彼らは、テスラが提案した60サイクルの交流システム（テスラのモーターの動作周波数に合わせるため）に落ち着いた。
　しかし、テスラの誘導モーターは一定速度でしか動作しないため、路面電車には適さないことがすぐに分かった。
　結局、代わりに直流牽引モーターを使用することになった。

　テスラが誘導電動機を実演し、ウェスティングハウスがその特許をライセンスしたのは、どちらも1888年のことで、当時は電力会社間の競争が激しかった。
　ウェスティングハウス、エジソン、トムソン・ヒューストン・エレクトリック・カンパニーの3大企業は、資本集約型のビジネスで成長しようとしながら、互いに財政的に競い合っていた。
　
　「電流戦争」のプロパガンダキャンペーンさえ行われ、
　　　エジソン・エレクトリック
は自社の直流システムはウェスティングハウスの交流システムよりも優れていて安全だと主張した。
　トムソン・ヒューストンは時々エジソンの味方をしていた。
　この市場で競争するということは、ウェスティングハウスにはテスラのモーターと関連する多相システムをすぐに開発するための資金もエンジニアリングリソースもないことを意味していた。
　

　テスラとの契約を結んでから2年後、ウェスティングハウス・エレクトリックは苦境に陥った。
　ロンドンの
　　　ベアリングス銀行
が破綻寸前になったことが1890年の金融恐慌の引き金となり、投資家たちはウェスティングハウス・エレクトリックへの融資の返済を迫ったためだ。　
　青天の霹靂ともいえる突然の資金不足により、同社は債務の借り換えを余儀なくされた。
　新たな貸し手は、テスラとの契約におけるモーター1台あたりのロイヤリティを含め、他社の買収、研究、特許への過剰と思われる支出を削減するようウェスティングハウスに要求した。
　その時点では、テスラの誘導モーターは成功しておらず、開発が行き詰まっていた。
　ウェスティングハウスは、モーターの稼働例が少なく、それを動かすために必要な多相電力システムはさらに希少であったにもかかわらず、年間1万5000ドルの保証ロイヤリティを支払っていた。
　
　1891年初頭、ジョージ・ウェスティングハウスはテスラに自身の財政難を厳しく説明し、もし貸し手の要求に応じなければ、もはやウェスティングハウス・エレクトリックの経営権を失い、テスラは将来のロイヤリティを徴収するために「銀行家と交渉」しなければならないと述べた。
　ウェスティングハウスがモーターの擁護者であり続けることの利点はテスラには明らかだったようで、彼は契約のロイヤリティ支払い条項から同社を解放することに同意した。
　6年後、ウェスティングハウスは1892年にエジソンとトムソン・ヒューストンが合併してできた会社
　　　ゼネラル・エレクトリック
と締結した特許共有契約の一環として、テスラの特許を21万6000ドルの一括支払いで購入した。

　テスラは交流特許のライセンス供与で得たお金で独立して裕福になり、自分の興味を追求する時間と資金を得ることができた。
　1889年、テスラはペックとブラウンが借りていたリバティストリートの店から引っ越した。
　その後12年間、マンハッタンの一連の工房/研究室で働いた。
　これらには、グランドストリート175番地の研究室（1889年 - 1892年）、サウスフィフスアベニュー33-35番地の4階（1892年 - 1895年）、イーストヒューストンストリート46番地と48番地の6階と7階（1895年 - 1902年）が含まれていた。　
　テスラと彼が雇ったスタッフは、これらの工房で彼の最も重要な仕事のいくつかを行った。

　1889年の夏、テスラはパリ万国博覧会を訪れ、電波を含む電磁放射の存在を証明した
　　　ハインリヒ・ヘルツ
の1886年から1888年にかけての実験について知った。　
　テスラはこれらの実験を繰り返し、さらに発展させて、テスラが改良型アーク照明システムの一部として開発していた
　　　高速オルタネーターでルームコルフコイル
に電力を供給しようとしたが、高周波電流が鉄心を過熱し、コイルの一次巻線と二次巻線の間の絶縁体を溶かしてしまうことがわかった。
　この問題を解決するために、テスラは一次巻線と二次巻線の間に絶縁材ではなく空隙を設け、鉄心をコイルの内外のさまざまな位置に移動できる「振動変圧器」を考案した。
　これは後に
　　　テスラコイル
と呼ばれ、高電圧、低電流、高周波の交流電気を生成するのに使用された。
　彼はこの共振トランス回路を後の
　　　無線電力研究
に使用した。

　1891年7月30日、35歳になったテスラはアメリカの国籍を取得た。
　また、同年、彼はテスラコイルの特許を取得した。

　1891年コロンビア大学での講義中に、テスラは手に持った2本の長いガイスラー管（ネオン管に似たもの）を使って「静電誘導」による無線照明を実演した。

　1890年以降、テスラはテスラコイルで発生した高交流電圧を使用して誘導結合と容量結合によって電力を伝送する実験を行った。
　彼は近接場誘導結合と容量結合に基づく無線照明システムの開発を試み、ステージの向こう側からガイスラー管や白熱電球を点灯する一連の公開デモンストレーションを行った。
　彼は10年間のほとんどを、さまざまな投資家の助けを借りてこの新しい形式の照明のバリエーションの開発に費やした。
　しかし、どのベンチャーも彼の発見を商品化することには成功しなかった。

　1893年、ミズーリ州セントルイス、ペンシルベニア州フィラデルフィアの
　　　フランクリン研究所
　　　全米電灯協会
で、テスラは、地球を経由して自分のようなシステムを送ることで、最終的には「電線を使わずに、どんな距離にも理解可能な信号、あるいは電力さえも」送ることができると確信していると語った。

　テスラは1892年から1894年まで、現在の
　　　IEEE （無線技術者協会とともに）
の前身であるアメリカ電気技術者協会の副会長を務めた。

　1893年の初めまでに、ウェスティングハウスの技術者
　　　チャールズ・F・スコット
　　　ベンジャミン・G・ラム
は、テスラの誘導モーターの効率的なバージョンの開発を進めていた。
　ラムは、回転式コンバータを開発することで、必要な多相システムを古い単相交流および直流システムと互換性のあるものにする方法を見つけた。
　ウェスティングハウス・エレクトリックは、すべての潜在顧客に電力を供給する方法を手に入れ、多相交流システムを「テスラ多相システム」としてブランド化し始めた。
　彼らは、テスラの特許により、他の多相交流システムよりも特許の優先権が得られると信じていた。 

　ウェスティングハウス・エレクトリックは、1893年にシカゴで開催された
　　　世界コロンビアン博覧会
への参加をテスラに依頼した。
　この博覧会では、同社は「エレクトリシティ・ビル」内に電気展示用の大きなスペースを設けていた。
　ウェスティングハウス・エレクトリックは、博覧会を交流で照らす入札に勝ち、これは交流電力の歴史において重要な出来事となった。
　同社は、多相交流システムの安全性、信頼性、効率性をアメリカ国民に実証した。
　このシステムは博覧会の他の交流および直流展示にも電力を供給できた。

　特別展示スペースが設けられ、テスラの誘導モーターの様々な形やモデルが展示された。
　誘導モーターの二相コイルを使って銅の卵を回転させて立てる「コロンブスの卵」などの一連のデモンストレーションを通じて、それらを駆動する回転磁界が説明された。

　テスラは6ヶ月間の開催期間中、1週間フェアを訪れ、国際電気会議に出席し、ウェスティングハウスの展示で一連のデモンストレーションを行った。
　特別に暗くした部屋が設けられ、テスラはアメリカやヨーロッパで以前に行っていたデモンストレーションを使用して、ワイヤレス照明システムを披露した。
　これらには、高電圧、高周波交流を使用してワイヤレスガス放電ランプを点灯することが含まれていた。

　展示部屋には、スズ箔で覆われた 2 枚の硬質ゴム板が吊り下げられ、これらは約 15 フィート離れており、変圧器から伸びる電線の端子として機能していた。　
　電流が流されると、電線が接続されていないが吊り下げられた板の間のテーブルに置かれた、
　または部屋のほぼどこにでも手で持てるランプや管が光った。
　これらは、テスラが約 2 年前にロンドンで行ったのと同じ実験であり、同じ装置で、「そこでは多くの驚きと驚嘆が生み出された」。

　コロンビアン博覧会農業ホールで開催された国際電気会議でのプレゼンテーションで、テスラは同年特許を取得した蒸気駆動の往復発電機を紹介した。
　彼はこれが交流電流を生成するより良い方法だと考えていた。
　蒸気が発振器に押し込まれ、一連のポートから噴出することで、アーマチュアに取り付けられたピストンが上下に押された。
　磁気アーマチュアは高速で上下に振動し、交流磁場を発生させた。
　これにより、隣接するワイヤコイルに交流電流が誘導された。
　これにより、蒸気エンジン/発電機の複雑な部品が不要になったが、電気を生成するための実現可能なエンジニアリングソリューションとしては普及しなかった。

　1893年、ナイアガラ滝建設会社を率いていた
　　　エドワード・ディーン・アダムス
は、滝で発電した電力を送電するにはどのようなシステムが最適かテスラに意見を求めた。
　数年にわたり、最善の方法を巡って一連の提案や公開競争が行われていた。
　米国や欧州の複数の企業が提案したシステムには、2相および3相交流、高電圧直流、圧縮空気などがあった。
　アダムスはテスラに、競合するすべてのシステムの現状について情報を求めた。
　テスラはアダムスに、2相システムが最も信頼性が高く、2相交流を使用して白熱電球を点灯するウェスティングハウスのシステムがあるとアドバイスした。
　同社は、テスラのアドバイスとコロンビアン博覧会でのウェスティングハウスのデモンストレーションに基づいて、ナイアガラの滝に2相交流発電システムを建設する契約をウェスティングハウス・エレクトリックに与えた。　
　同時に、交流配電システムを構築する契約がゼネラル・エレクトリックに与えられた。

　
　1895年、エドワード・ディーン・アダムスはテスラの研究室を見学した際に見たものに感銘を受け、ニコラ・テスラ社の設立に協力することに同意した。
　同社は、テスラの過去の特許や発明、そして新しいものに対して資金提供、開発、販売を行うために設立された。
　アルフレッド・ブラウンが署名し、ペックとブラウンの下で開発された特許も持ち込んだ。
　取締役会にはウィリアム・バーチ・ランキンとチャールズ・F・コーニーが加わった。
　1890年代半ばは財政的に厳しい時期だったため投資家はほとんどおらず、販売するために設立された無線照明と発振器の特許はうまくいかなかった。
　同社はその後数十年にわたってテスラの特許を扱った。

　1895年3月13日の早朝、テスラの研究室があったサウスフィフスアベニューのビルが火事になった。
　火事はビルの地下から始まり、非常に激しく燃えたため、テスラの4階の研究室が燃えて2階に崩れ落ちた。
　この火事はテスラの進行中のプロジェクトを遅らせただけでなく、初期のメモや研究資料、模型、デモンストレーション作品のコレクションも破壊した。
　その中には1893年のコロンビア万国博覧会で展示されていたものも含まれていた。テスラはニューヨークタイムズ紙に「あまりの悲しみで話せない。何を言えばいいのか?」と語った。
　火事の後、テスラはイーストヒューストンストリート46番地と48番地に移り、6階と7階に研究室を再建した。

　1894年から、テスラは、以前の実験で研究室のフィルムが損傷していることに気づいた後、彼が「目に見えない」種類の放射エネルギーと呼んだもの（後に「レントゲン線」または「 X線」と特定された）の研究を始めた。
　彼の初期の実験は、冷陰極放電管であるクルックス管を使ったものだった。
　テスラは、初期のガス放電管であるガイスラー管で照らされたマーク・トウェインを撮影しようとしたときに、偶然X線画像を撮影した可能性がある。
　これは、ヴィルヘルム・レントゲンが1895年12月にX線発見を発表する数週間前のことである。
　画像に写っていたのは、カメラのレンズの金属製の固定ネジだけだった。

　1896年3月、レントゲンによるX線とX線画像（レントゲン撮影）の発見を聞いた後、 テスラはX線画像に関する独自の実験を進め、ターゲット電極がなくテスラコイルの出力で動作する独自設計の高エネルギー単端子真空管を開発した。
　この装置によって生成される現象の現代の用語は制動放射である。
　研究の中で、テスラはX線を生成するためのいくつかの実験装置を考案した。
　テスラは、彼の回路により、「装置は...通常の装置で得られるよりもはるかに強力なレントゲン線を生成することができる」と考えた。

　テスラは、回路と単一ノードのX線発生装置を扱う際の危険性に気付いていた。
　この現象の初期調査に関する多くのメモの中で、彼は皮膚損傷の原因をさまざまなものとしている。
　彼は当初、皮膚損傷はレントゲン線ではなく、皮膚との接触で発生したオゾン、そして程度は低いが亜硝酸によるものだと信じていた。
　テスラは、X線はプラズマの波で生成される縦波のようなものだと誤って信じていた。
　これらのプラズマ波は、力のない磁場で発生することがある。

　1934年7月11日、ニューヨーク・ヘラルド・トリビューンはテスラに関する記事を掲載した。
　その中でテスラは、単電極真空管の実験中に時折起こる出来事を思い出していた。
　小さな粒子が陰極から外れて真空管から抜け出し、彼に物理的に当たるのである。

　テスラは、それが体内に入った場所と、それが体外に出た場所で、鋭く刺すような痛みを感じたと語った。
　これらの粒子を「電気銃」から発射された金属片と比較して、テスラは「力のビーム内の粒子は...そのような粒子よりもはるかに速く移動し...集中して移動する」と述べた。

　1898年、テスラは無線操縦ボートを披露し、それを世界中の海軍に誘導魚雷として販売することを望んでいた。
　1898年、テスラはマディソン・スクエア・ガーデンで開催された電気展示会で、コヒーラベースの無線制御を使用したボート（彼はこれを「テレオートマトン」と名付けた）を一般公開した。
　
　テスラは自分のアイデアを
　　　無線制御魚雷
の一種として米軍に売り込もうとしたが、ほとんど関心を示さなかった。
　遠隔無線制御は第一次世界大戦とその後も目新しいものであり、多くの国が軍事計画に使用した。　　
　テスラは1899年5月13日、コロラドスプリングスに向かう途中、シカゴのコマーシャル・クラブの会合で「テレオートマトン」のさらなるデモンストレーションを行う機会を得た。

　　

　1890 年代から 1906 年にかけて、テスラは、電線を使わずに電力を伝送する方法を開発する一連のプロジェクトに多大な時間と財産を費やした。
　これは、ワイヤレス照明で実証していたコイルを使って電力を伝送するという彼のアイデアの拡張であった。
　彼はこれを、世界中に大量の電力を伝送する方法であるだけでなく、以前の講義で指摘したように、世界規模の通信を伝送する方法でもあると考えていた。

　テスラがアイデアを練っていた当時、長距離、ましてや大量の電力を無線で通信信号を送信する現実的な方法はなかった。
　テスラは早い時期に電波を研究し、ヘルツによる既存の電波研究の一部が間違っているという結論に達した。　
　また、この新しい形態の放射線は、当時は1マイル未満で消滅する短距離現象であると広く考えられていた。
　テスラは、たとえ電波に関する理論が真実だとしても、この形態の「目に見えない光」は他の放射線と同じように距離とともに減衰し、まっすぐに宇宙空間へと進み、「絶望的に失われる」ため、意図した目的にはまったく役に立たないと述べた。

　1890年代半ばまでに、テスラは地球や大気圏を通じて長距離にわたって電気を伝導できるかもしれないという考えに取り組み、イースト・ヒューストン・ストリートの研究所に大きな共鳴変圧器拡大送信機を設置するなど、この考えを検証する実験に取り組み始めた。 　
　地球の大気は導電性であるという当時の一般的な考えを借用したと思われるが、彼は、高度30,000フィート（9,100メートル）以上の空中に電極を吊るして送信および受信する気球で構成されるシステムを提案し、気圧が低いため高電圧（数百万ボルト）を長距離送信できると考えた。

　低圧空気の導電性をさらに研究するため、テスラは1899年にコロラドスプリングスの高地で実験ステーションを設立した。
　そこではニューヨークの研究室の狭い空間よりもはるかに大きなコイルを安全に操作することができ、また仲間がエルパソ電灯会社に交流電流を無料で供給するよう手配していた。
　実験資金を調達するため、彼は
　　　ジョン・ジェイコブ・アスター4世
を説得して10万ドル（現在の価値で377万9600ドル）を出資させ、
　　　ニコラ・テスラ社
の筆頭株主となった。
　アスターは主に新しい無線照明システムに投資するつもりだったが、テスラはその資金をコロラドスプリングスの実験に充てた。
　到着後、彼は記者団に対し、パイクスピークからパリへ信号を送信する無線電信実験を行う予定であると語った。
　テスラが数百万ボルトの電圧を発生させる「拡大送信機」の横に座っている多重露光写真。長さ7メートル（23フィート）のアークは通常の動作ではなく、電源スイッチを素早くオンオフすることで効果を出すために生成されたもの。

　そこで彼は、メガボルトの範囲で動作する大きなコイルを使って実験を行い、数百万ボルトの電圧と最大135フィート（41メートル）の長さの放電からなる人工の稲妻（と雷）を発生させた。
　そしてある時点で、エルパソの発電機をうっかり焼き切ってしまい、停電を引き起こした。
　彼は、落雷の電子ノイズを観察した結果、地球全体を電気エネルギーの伝導に使用できるという （誤った）結論に至りました。

　テスラは研究室にいる間、受信機から異常な信号が聞こえるのを観測し、他の惑星からの通信ではないかと推測した。
　彼は1899年12月に記者に宛てた手紙の中でそのことに言及し、 1900年12月には赤十字社に宛てた手紙の中でそのことに言及した。
　記者たちはそれをセンセーショナルな話として扱い、テスラが火星から信号を聞いているという結論に飛びついた。
　彼は1901年2月9日のコリアーズ・ウィークリー誌の記事「惑星との対話」で自分が聞いた信号について詳しく述べ、その中で「知的に制御された信号」を聞いているとはすぐには気づかなかったと述べ、その信号は火星、金星、あるいは他の惑星から来ている可能性があると述べた。
　1899年7月に彼が
　　　グリエルモ・マルコーニ
のヨーロッパでの実験を傍受したのではないかという仮説が立てられている。
　マルコーニは海軍のデモンストレーションでSの文字（点/点/点）を送信した可能性がある。
　これはテスラがコロラドで聞いたと示唆したのと同じ3つのインパルスである。
　あるいは、別の実験者が無線送信で信号を送信した可能性もある。

　テスラはセンチュリー・マガジンの編集者と、彼の発見についての記事を書く契約を結んでいた。
　同誌はコロラドに写真家を派遣し、そこで行われている研究を撮影させ
　　　「人間のエネルギー増大の問題」
と題された記事は、1900年6月号の同誌に掲載された。
　彼は自分が構想した無線システムの優秀さを説明したが、その記事は彼の研究のわかりやすい科学的説明というよりは、長々とした哲学論文のようなもので、テスラとコロラドスプリングスの実験の象徴的な画像が添えられていた。

　1904 年、ロングアイランドにあるテスラのウォーデンクリフ工場。テスラはこの施設から、大西洋を越えた電気エネルギーの無線伝送を実証しようと考えた。

　テスラはニューヨークを回り、無線通信の実現可能と思われるシステムへの投資家を探して、ウォルドルフ・アストリア・ホテルのパーム・ガーデン（当時テスラが住んでいたホテル）、プレーヤーズ・クラブ、デルモニコなどで投資家を接待した。　
　1901年3月、テスラは
　　　JPモルガン
から15万ドル（現在の価値で566万9400ドル[ 76 ]）を調達し、無線特許の51%の権利と引き換えに、ニューヨーク州ショアハム（ニューヨーク市から東に100マイル（161km））にウォーデンクリフ・タワー施設を建設する計画を開始した。 

　1901年7月までに、テスラはマルコーニの無線ベースのシステムを飛躍的に進歩させるため、より強力な送信機を作る計画を拡大していた。
　テスラはマルコーニのシステムは自分のシステムのコピーだと思っていた。　
　彼はモルガンにもっと大きなシステムを作るための資金を求めたものの、モルガンはそれ以上の資金提供を拒否した。
　1901年12月、マルコーニはイギリスからニューファンドランド島へSの文字を送信することに成功し、この種の送信を最初に完成させる競争でテスラに勝利した。
　マルコーニの成功から1か月後、テスラは「地球全体の振動」を制御することでメッセージと電力を送信するというさらに大規模な計画をモルガンに支持させようとした。
　その後5年間で、テスラはウォーデンクリフの建設を完了するための追加資金を懇願し要求する手紙を50通以上モルガンに書いた。
　テスラは1902年までさらに9か月間プロジェクトを続けた。
　塔は187フィート（57メートル）の高さまで建てられた。　
　1902年6月、テスラは研究室の運営をヒューストン通りからウォーデンクリフに移した。

　ウォール街の投資家たちはマルコーニのシステムに資金を投入しており、マスコミの中にはテスラのプロジェクトはでっちあげだとして反対する者も現れ始めた。　
　プロジェクトは1905年に中止となり、1906年には財政問題やその他の出来事がテスラの伝記作家マーク・J・サイファーの推測によるとテスラの神経衰弱を引き起こした可能性がある。
　テスラはウォルドルフ・アストリアでの負債を返済するためウォーデンクリフの土地を抵当に入れたが、その負債は最終的に2万ドル（現在の価値で62万7800ドル[ 76 ]）に上った。
　テスラは1915年に差し押さえでその土地を失い、1917年にタワーは新しい所有者によって土地をより価値ある不動産資産にするために取り壊された。

　ウォーデンクリフが閉鎖された後も、テスラはモルガンに手紙を書き続けた。
　「偉大な人物」が亡くなった後、テスラはモルガンの息子ジャックに手紙を書き、プロジェクトのさらなる資金を得ようとした。
　1910年から1914年までメトロポリタンライフタワーに事務所を構え、ウールワースビルに数か月間借りたが、家賃を払えなくなったため退去した。
　その後、1915年から1925年まで西40丁目8番地に事務所を構えた。
　西40丁目8番地に移転した後、テスラは事実上破産した。
　特許のほとんどが期限切れとなり、開発しようとしていた新しい発明に問題を抱えていた。　
　

　第一次世界大戦が勃発すると、イギリスはアメリカとドイツを結ぶ大西洋横断電信ケーブルを切断し、両国間の情報の流れを統制した。
　また、アメリカのマルコーニ社にドイツのラジオ会社
　　　テレフンケン
を特許侵害で訴えさせ、ドイツとアメリカの無線通信を遮断しようとした。
　テレフンケンは、物理学者の
　　　ジョナサン・ツェネック
　　　カール・フェルディナント・ブラウン
を弁護に起用し、テスラを2年間月1,000ドルで証人として雇った。
　この訴訟は行き詰まり、1917年にアメリカがドイツとの戦争に参戦すると、議論の余地がなくなった。

　1915年、テスラはマルコーニ社を
　　　無線チューニング特許侵害
で訴えようとした。
　マルコーニの最初の無線特許は1897年に米国で認められていたが、無線送信の改良に関する1900年の特許申請は何度も却下された後、1904年にようやく承認された。
　理由は、1897年のテスラの無線電力チューニング特許2件を含む他の既存特許を侵害しているという理由だった。
　テスラの1915年の訴訟は行き詰まったが、マルコーニ社が第一次世界大戦の特許侵害で米国政府を訴えようとした関連訴訟では、 1943年の米国最高裁判所の判決により、オリバー・ロッジ、ジョン・ストーン、テスラの先行特許が復活した。
　裁判所は、この判決はマルコーニが最初に無線通信を実現したという主張には関係がなく、マルコーニの特定の特許改良に対する主張が疑わしいため、同社はそれらの特許に対する侵害を主張できないと宣言した。

　1915年11月6日、ロンドンのロイター通信は、1915年のノーベル物理学賞は
　　　トーマス・エジソン
　　　ニコラ・テスラ
に授与されると報じたが、11月15日、ストックホルムのロイター通信は、その年の賞は「X線による結晶構造の分析への貢献」に対して
　　　ウィリアム・ヘンリー・ブラッグ
　　　ローレンス・ブラッグ
に授与されると報じた。

　第一次世界大戦前、テスラは海外の投資家を探していました。戦争が始まると、テスラはヨーロッパ諸国での特許から得ていた資金を失いました。

　1928年、テスラは
　　　垂直離着陸（VTOL）
が可能な複葉機の設計に関する特許（米国特許1,655,114 ）を取得した。
　この複葉機は飛行中に「昇降舵装置の操作によって徐々に傾き」、通常の飛行機のように飛行するようになった。　
　この非実用的な設計は、テスラが1,000ドル以下で売れると考えていたものだった。

　テスラは1900年からニューヨーク市のウォルドルフ・アストリアに住み、多額の請求書を抱えた。 [ 203 ]彼は1922年にセント・レジス・ホテルに移り、それ以降は数年ごとに別のホテルに移り、未払いの請求書をそのまま残すというパターンを続けた。

　テスラは毎日公園まで歩いて鳩に餌をやった。彼はホテルの部屋の窓際で鳩に餌をやり、怪我をした鳩を看病して元気に戻した。
　彼は、ある怪我をした白い鳩が毎日のように訪ねてきたと語った。彼はその鳩の世話に2,000ドル以上（2024年の価値で37,570ドルに相当）を費やし、折れた翼と脚が治るまで快適に鳩を支える装置も作った。

　テスラは未払いの請求書や鳩が散らかしたという苦情により、1923年にセントレジスから追い出された。
　また、 1930年にはペンシルバニアホテル、1934年にはガバナークリントンホテルからも追い出された。
　一時期はマルグリーホテルにも宿泊していた。　

　1937年、ホテル・ニューヨーカーのグランド・ボールルームで行われたイベントで、テスラはチェコスロバキア大使から白獅子勲章を、ユーゴスラビア大使からメダルを授与された。
　デス・レイに関する質問に対して、テスラは「しかし、これは実験ではありません。私はこれを製作し、実証し、使用しました。世界に提供できるまでには、もう少し時間がかかるでしょう。」と答えた。

　1937年秋、81歳になったある夜、真夜中過ぎにテスラはホテル・ニューヨーカーを出て、いつものように大聖堂と図書館へ鳩に餌をやるために出かけた。ホテルから数ブロック離れた道路を渡っているとき、テスラは走行中のタクシーに衝突され、地面に投げ出された。
　事故で背中をひどく捻挫し、肋骨を3本折った。
　負傷の全容は不明である。
　テスラはほぼ生涯にわたって医者の診察を拒否し、完全に回復することはなかった。

　1943年1月7日、86歳でテスラはホテル・ニューヨーカーの3327号室で一人亡くなった。
　彼の遺体はメイドのアリス・モナハンが、2日前にテスラが部屋のドアに貼った「立ち入り禁止」のサインを無視してテスラの部屋に入った際に発見された。
　検死官補佐のHW・ウェンブリーが遺体を検査し、死因は冠状動脈血栓症（心臓発作の一種）であると判定した。

　この2日後、連邦捜査局は外国人財産管理局にテスラの所有物を押収するよう命じた。
　MIT教授であり、国防研究委員会の技術補佐官を務める著名な電気技師
　　　ジョン・G・トランプ
がテスラの所有物を分析するために呼び出された。
　3日間の調査の後、トランプの報告書は、敵の手に渡っても危険となるものは何もないと結論付け、「少なくとも過去15年間のテスラの思想と努力は、主に思索的で哲学的であり、いくぶん宣伝的な性格のものであり、電力の生産と無線伝送に関係することが多かったが、そのような結果を実現するための新しい、健全で実行可能な原理や方法は含まれていなかった。」と述べた。

　テスラの「デス・レイ」の一部が入っているとされる箱の中に、トランプ氏は45年前の数十年にわたる抵抗箱を発見した。