11月の米大統領選に向けた世論調査では、経済運営の手腕に関してバイデン大統領よりも、トランプ前大統領を有権者はより信頼していることが繰り返し示されている。
実際、バイデン政権下で雇用情勢は1960年台以来の好調さを保ち、全体的な経済成長もトランプ政権を上回っているが、有権者の実感には反映されていない状況にある。
むしろ有権者の関心は今年、
新型コロナウイルス禍後の物価高騰
に集中しているのが現実だ。
ブルームバーグと
モーニング・コンサルタントが激戦州を対象に行った4月の世論調査では、トランプ政権下の方がバイデン政権下よりも経済的に良かったとの回答は51%に上り、その割合はバイデン政権下の方が良いと回答した32%を上回った。
15項目の経済問題のうち、有権者の最大の関心事はダントツで
生活必需品の価格
だった。
バイデン・ハリス陣営の報道官は、大統領は「ドナルド・トランプの失策が残した混乱から、偉大な米国の復活を導いてきた」と指摘した。
米経済は利上げがリセッションの引き金になるだろうとの市場予想を上回る好調さをみせたと述べた。その上で、ブルームバーグが本記事で選んだ指標を「欠陥がある」と批判し、バイデン大統領の就任以来
1500万人の新規雇用
が創出されたと指摘した。
これに対して、トランプ陣営の報道官は、コロナ禍の雇用喪失は割り引いて考えるべきだと主張した。
また、トランプ氏が返り咲きば「米国第一主義、成長・雇用の促進策を実施し、すべての米国人の生活を向上させる」と述べた。
有権者の経済に関する体験はまず購買力から始まるが、大統領選挙が近づくに連れ米国内のインフレへの対応が注目されることになる。
米国民1人当たりの
実質可処分所得(税引き・インフレ調整後)
は生活水準を測る明確な指標だ。
なお、バイデン政権下で改善したが、平均するとトランプ政権時代の約4分の1のペースにとどまるため、トランプ時代をバラ色に見せる効果が続いているということだ。
トランプ氏は、バイデン氏よりもはるかに
多くの財政赤字
を伴う刺激策で景気を活性化させ、コロナ流行による経済危機が起こる前から、富裕層に偏った10年間で
1兆9000億ドル(約295兆円)規模の減税
を実施した。
また、トランプ政権に忖度した日本政府の円安低金利政策が米国の経済活動の拡大を支援し、ゼロサム経済では日本国民に経済負担を強いて、欧米の原油・天然ガス・穀物・食肉等あらゆる原料の価格を引き上げ、蓄えてきた資産をたいドルで低下させ、海外に垂れ流し続けたまま放置されている。
超党派の非政府組織(NGO)
「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」
の推計によると、トランプ氏はさらに現金給付を含むコロナ救済策に3兆5000億ドルを投じた。
そのためコロナ禍によるロックダウンが経済に大きな打撃を与え、失業率が急上昇する中でも、米国人の所得は押し上げられた。
CRFBの分析によると、トランプ氏の減税とコロナ救済策に対して、バイデン氏は差し引き2兆20000億ドルの救済策を実施した。
両氏の相次ぐ景気刺激策によって連邦債務は急増している。
ただ、それでも、バイデン政権下における可処分所得の伸びは、インフレによって第二次世界大戦後の歴代大統領の中でも極めて低い水準にとどまる見通しにある。
バイデン政権下における消費者物価指数(CPI)の累積上昇率は、過去40年のどの歴代大統領よりも高くなる可能性が高い。
これに対し、トランプ政権下のインフレ率は概ね米金融当局の目標である2%前後で推移し、さらに低い水準で任期を終えていた。
トランプ大統領が就任した2017年のインフレ率は2.5%で、コロナ流行に伴う経済危機でインフレ率はほぼゼロになった。
経済再開に伴い2022年6月には40年ぶりの高水準となる9.1%に急上昇した。
その後、インフレは下がってきたが、4月は3.4%となお高水準にとどまる。
共和党はインフレ高進を招いたとして、バイデン大統領が主導した2021年3月のコロナ救済法やその他の連邦支出を非難したが、トランプ氏の任期中にもコロナ救済の現金給付は実施されたうえ、減税も行われてきた。
トランプ、バイデン両政権下で実施されたコロナ救済策の効果が合わさり、経済活動の再開時に物価を跳ね上がらせる誘因となった可能性が高い。
これに加え、プライチェーンの目詰まりも、重大なインフレ要因となった。
バイデン政権時代の平均失業率は推定4.1%と、ベトナム戦争を拡大させ徴兵で戦闘員を送り込むことで失業率に大きな影響を与えた
リンドン・ジョンソン政権(1965ー1969年)
を除けば、現代における歴代大統領の中で最低となっている。
失業率は2019年末の3.6%から、コロナ禍が最も深刻だった2020年4月には14.8%に跳ね上がった。
その後、トランプ氏が大統領を退任した月には6.4%に低下し、バイデン政権になっても景気回復とともに下がり続けた。
バイデン氏は2年余りにわたって失業率が4%を割り込んでいることを実績として誇ることができるし、低失業率の記録としては過去半世紀余りで最も長いものだ。
好調な雇用機会の持続は、マイノリティーや障害者など、歴史的に仕事に就くのが困難だった層に特に恩恵をもたらした。
なかでも、アフリカ系米国人の失業率はバイデン政権下で過去最低を記録した。
ただ、コロナ禍直前のトランプ政権下でも数十年ぶりの低水準に下がっていた。
18歳未満の子供を持ち、仕事を持つ母親は、データがさかのぼれる2009年以降で最も多いため、労働者数は増加している中での話だ。
これは好調な労働市場に加え、リモートワークやハイブリッド型勤務の普及が後押しした可能性も効果として高い。
バイデン、トランプ両氏の下では低金利による市場への資金提供が広がったことに伴う金余りにより株価は急上昇した。
バイデン政権下におけるS&P500種株価指数の累積上昇率(15日終値時点)は、同時期におけるトランプ政権時代の上昇率をわずかに上回っている状況だ。
トランプ政権時代の減税により、連邦法人税率は35%から21%に下がり、企業利益と株価を押し上げた。
また、金利も低く、インフレ率も3%未満に抑えられていたことも、株価の支援材料だった。
バイデン政権下では、インフレ対応として金利を引き上げ「高金利」にもかかわらず、マ「マグニフィセント・セブン」など膨らんだ資金を利用した選別的銘柄に注目させたことで、株価はこのところ好調さが続いている。
また、力強い経済成長が企業利益を押し上げ、人工知能(AI)の進歩が生産性向上への期待を高めている。
スタートアップで資金を投入を受けているハイテク7社で構成する「マグニフィセント・セブン」の突出した成長が市場の追い風となっている。
バイデン政権下でインフレ抑制に向けた急ピッチの利上げが住宅ローン金利を押し上げたことで
住宅購入のハードル
がはるかに高くなったが、コロナ禍で住宅建設が抑制され供給量が絞られたたことも背景にある。
もっとも、住宅ローン金利は現代において、オバマ政権以前の歴代大統領よりは低い水準にある。
コロナ禍の超低金利がかえって住宅購入を難しくしている面がある。
低い金利でローンを借り換えた住宅所有者が売ることをためらうため、供給が減り、価格高止まりを招いていることも要因のひとつと言われている。
現状、全体的な経済成長率は、バイデン政権の方がトランプ政権を上回っており、コロナ流行時に積み上げた貯蓄と、バイデン政権のコロナ救済策による景気刺激が後押した状況だ。
またバイデン政権下の米経済は、コロナ禍からの経済再開で欧州連合(EU)や日本、英国といった諸外国を上回る回復を遂げている。
ひとこと
日本経済が崖っぷちのままでスタグフレーションに陥るリスクが高まっているが、米国政府への忖度で、保有する米国債券を円安を活用し市場で売り、円に交換すれば5割の為替差益と金利分の収益があり、この資金で1000兆円を超えている国債発行残高を半減させることは容易いが、日米首脳会談で了解はえられず、日銀も市場介入の資金を手持ちの資金で対応するのみで、輸入物価の上昇で海外に流れ出る資金の大きさから見ればほとんど効果がない「ゆでガエル」の状態だ。